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(せ)婷婷 終

国に帰るという彼女を止める理屈を、私は持ち合わせてはいなかった。
当然だ。客と従業員。それ以外の関係性は私たちの間にはないのだから。
平静を装って「いつ帰るの?」と尋ねると、2週間先とのこと。
胸板に比例して財布も薄い私は、そう頻繁に夜の街に繰り出す方ではないのだが、
そのときだけは最後にもう一度と思い、2週間後にまた婷婷の元を訪れた。

いつもと同じように、楽しくお喋りしながらいんぐりもんぐり。
国に帰った後は少し実家でゆっくりして、その後オーストラリアに語学留学するらしい。
きっと素敵な場所で素敵な人と出会い、素敵な人生を花咲かせることだろう。
寂しさよりも、彼女の門出を祝う気持ちで私の胸はいっぱいだった。

最後の時間が過ぎゆく。
彼女はぽつぽつと私についての話をし始めた。

「1900ちゃんはせっかくいい男なんだから」
「もっと自分に自信を持って、自分の魅力をみんなにアピールして」
「あっちこっち出掛けてみるのもいいし、ギターを頑張るのも素敵だし」
「そしたらきっと色んな人が集まってくるよ」
「私なんかがばったり会っても、気づいてもらえなくなっちゃうね」

ハハハと笑いつつも、私は涙を堪えるのに精一杯だった。
何故そんなことを言うのだろうか。何事もなくバイバイでいいじゃないか。
何故一番言われて嬉しいことを、もう二度と会わないだろう人に言われなくてはならないのか。
今思うと、婷婷は人の心を見抜く洞察力が人一倍優れていたのかもしれない。
この人は何をすれば喜ぶのか、何を言われたらこの人は嬉しいのだろうか。
そういうことを呼吸するような自然さで汲み取ってしまうのだ。
他の人と会っているところは見たことがないが、たくさんの人に囲まれて笑う彼女の姿を、私ははっきりと思い描くことができる。

「じゃあ、またね」

手を振り合っての別れは、案外あっさりしていた。客と従業員の関係性に相応しい、短い別れの挨拶。
しかし婷婷なら、きっとこの短い挨拶に込めた万感の思いを汲み取ってくれるはずだ。
駅へ向かう私の後ろ姿を見ているかどうかはわからないが…いや、きっと見てなんかいないだろう。
それでも私は、できる限り胸を張って歩いた。
自分に自信を持って、あっちこっちに出掛けて自分の魅力をアピールして、ギターを頑張って、色んな人を惹きつけられるようになって、
ばったり婷婷に出会ったら気づかないふりをしてやるのだ。
そんないい男になるための第一歩。
道行く人に見せつけるように、私は亭亭と歩いた。

「1900ちゃん、久しぶり。私のこと覚えてる?」
「うーん、誰だったかな?」

いつかそう言ってやる、そのときのために。

(終)

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※この物語はフィクションだったりノンフィクションだったり、脚色を含んでいたりいなかったりします。

1900
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ライブドアねとらじで不定期に放送中のラジオ「ふぉるすたーらじお」の面々による共同ブログです。

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